• コウスケ

10年後の『おだやかな暮らし』



特別こだわりというわけではないのですが、車に乗るときはBluetoothでスマホをつないで、音楽をランダム再生するのが好きです。想定外の曲が再生されるのが楽しいのです。

ただ、中には流れた瞬間に「この曲きたかー」とうなってしまう、最近忘れていた思い出深い曲があったりします。先日、まさにそんな曲が流れました。クラムボンの『おだやかな暮らし』です。ご存知でしょうか?


僕は突然流れてきたこの曲を改めて聞いて、色々と考えさせられたのです。




手のひらから伝わる愛


初めて聞いた時からこの曲のサビである


欲しいものは
おだやかな暮らし
当たり前の
太い根を生やし
好きな人の
手のひらがすぐそこにある
そんな毎日

という部分が特に心に響いていました。中でも『手のひら』という表現が好きでした。僕は『愛』をイメージするとき、『手』がとてもしっくりくるのです。その理由は僕の幼少期にあります。


僕には年子の妹がいます。彼女が生まれるまで、母は働いていたので日中僕の面倒は明治生まれの曽祖母が見ていてくれていました。妹が生まれることになって、母は会社を辞めたのですが、当然優先順位は小さい方になりますよね。僕の面倒は相変わらず曽祖母が見ていてくれていたようです。1歳に満たない幼児にとって、突然やってきた妹は母を占領した外敵でしかなく、噛んだり叩いたり、僕は妹を相当いじめたようです。すると問答無用で「お兄ちゃんなんだから!」と怒られる日々。幼い僕は荒れました。


夜寝るときも、母の隣は必ず妹。僕は母の背中かもしくは片手を伸ばされるだけ。でも、その伸ばされた手のひらは母の温もりが感じられて、いつも母の手のひらを頬にあて、しがみついて寝ていたことを覚えています。母に抱かれた実感はあまりなく、体が覚えているのは手の温もりだけ。幼い僕にとって、手のひらから伝わるものが母の愛でした。

だから今でも『手』にはとても愛を感じてしまうのです。


子どもが生まれた時、まず触れたのは手でした。こんなに気持ちいいものがあるのかと感動を覚えました。赤ちゃんの手があれば、今後の人生おっぱいなんて触らなくても生きていけるんじゃないか、そんな風に思いました。今でもふとした時、つい子どもたちの手を触ってしまいます。そして、特に長子である娘には自分のような寂しい思いをさせたくないと思い、特に気を遣っています。



当たり前の暮らしの中にある見えない幸せ


『おだやかな暮らし』を初めて聞いたのは2012年の春頃だったように思います。そのため、僕にとってこの曲は震災のイメージが強い曲の1つです。僕にとって震災イメージの曲は他にも2曲あります。1つはサンボマスター『できっこないをやらなくちゃ』で、この曲に励まされてサラリーマンを辞め地元である被災地に飛び込むことを決めました。もう1つはACのCM曲の『ポポポポーン』ってやつ。これは語るに及ばずですね。ま、言うに及ばずです。


がれきだらけ問題だらけの南相馬で僕が『できっこないをやらなくちゃ』と行動していたころ、大きな問題の1つとして報道されていたのが、福島県民差別問題でした。福島県民であることを理由に震災前からの婚約を破棄されたり、結婚を反対されたり、結婚相談所への登録を断られたりという事案が相次いでいたのです。当時僕も独身でしたし、周囲の同世代の仲間たちも自分たちは結婚ができないんじゃないか、子どもが産めないんじゃないかという不安を抱えて生きていました。


実際、僕ら夫婦も娘が生まれてくるまでは「奇形かもしれない」「何かしら障害を抱えているかもしれない」という不安を抱いていました。娘が生まれて、そして育っていく姿を見てどれだけ安堵したことか。

だからこそ、2012年当時はこの曲のような『おだやかな暮らし』がしたいんだと、家族がいる理想的な幸せな風景として憧れていたのです。


そうだった、独身の時はこんな当たり前の日常が当たり前にくる暮らしが欲しかったんだよなと思い出を反芻していると、ふと気付きました。今は違うのか?もっと大きな洗濯機が欲しいとか、鬼のような妻は嫌だとか贅沢語ってる場合じゃない。悲しみや怒りを抱えていた2012年当時の自分から見たら、十分幸せじゃないか。『好きな人の手のひらがすぐそこにある』毎日は送れているじゃないか。妻の手、子どもたちの手がイメージされたら、なんだか泣けてきてしまい、車内で曲を何度も何度もリピートしていました。


あれが欲しい、これも欲しいという欲は、実は目の前に当たり前にある幸せを見えなくする作用があるんじゃないかと思います。自分が思い描いていた最もシンプルな幸せの形を10年経って再確認させられました。


欲しいものは
おだやかな暮らし
朝に注ぐ
柔らかな陽射し
好きな人の
手のひらがすぐそこにある
そんな毎日

あんまりイライラしないで、おだやかに暮らしましょ。

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