前回は、キーボードの打鍵感を「湖池屋スコーン」と「無重力ボール」という比喩で呼ぶようになった、という話を書きました。
今回は、その比喩を100点満点の採点表に落とし込んだ中身を全部出します。お使いのキーボードにも、そのまま点数をつけられる形にしてあります。
これは「良いキーボードを決める表」ではない
先に断っておきます。
この表は優劣を決めるためのものではありません。自分がどこを気に入っていて、どこが苦手なのかを分けて見るためのものです。
やっていることは、紙の見本帳をめくるときと同じです。厚い・薄いだけでは選べない。嵩、白さ、表面の粗さ、めくったときの音。分けて見るから選べる。
なので、配点は私の指のためのものです。そこだけ先に。

足切りの条件
採点する前に、いくつか外しました。
- 押し始めが40gを超えるもの
- タクタイルやクリックの山がはっきりあるもの
- 静音ダンパーで底がムニュッとするもの
- ストロークが長く、押している途中に粘りを感じるもの
- 長時間打つと指が疲れるもの
ただし、数字の上では外れていても、実際に触って気持ちよかったものは残すことにしました。
スペック表を信仰して指の証言を無視するのは、間抜けです。実際、荷重40gと書いてあるのに触ったら良かった機種があって、ちゃんと残っています。

A. 無重力ボール感:45点
いちばん配点が大きいところです。
ここから先は「点数のつけ方」の説明です。各機種が実際に何点だったかは #3 の採点結果 にまとめてあります。表の右端に「実際の機種でいうと」の列を足したので、基準と実物を行き来しながら読めるようにしました。
1. 押し始めの軽さ(15点)
| 押し始めの荷重 | 点数 | 実際の機種でいうと |
|---|---|---|
| 25gf以下 | 15 | 該当なし |
| 26〜30gf | 14 | Gateron Jade Attraction 30gf/CORSAIR K70 の銀軸 30cN/Pulsar PCMK 2 HE 30±7gf/ROG Falchion Ace 30〜32gf |
| 31〜35gf | 11 | SteelSeries Apex 9 TKL 35g/Logicool G515 RAPID 35±7g/ZENAIM KEYBOARD 2 32±10g |
| 36〜40gf | 7 | Razer Huntsman V3 Pro 40g/Wooting 80HE 純正 40gf |
| 41〜45gf | 3 | 一般的な茶軸・青軸のあたり |
| 46gf以上 | 0 | 重めのメカニカル全般 |
30gf以下が理想、35gfが許容上限です。
ここで一度つまずきました。
今使っている CORSAIR K70 RGB TKL の CHERRY MX Speed Silver(銀軸)は、メーカー公式に「作動力45cN」と書いてあります。それを押し始めの重さだと思い込んで、しばらく採点していました。
公式ページをよく見たら、押し始めは別に書いてありました。30cNです。作動力は、反応する瞬間の重さでした。
この表を使うときは、「初期荷重」「Initial force」と書かれた数字を探してください。「作動力」「Operating force」ではありません。私はここで二週間まわり道をしました。
2. 荷重変化の少なさ(15点)
押し始めと、底まで押し切ったときとで、どれくらい重さが変わるか。
| 押し始めと底打ちの差 | 点数 | 実際の機種でいうと |
|---|---|---|
| 0〜3gf | 15 | Gateron Jade Attraction(30gf → 30gf。差ゼロ) |
| 4〜8gf | 12 | 該当なし |
| 9〜15gf | 8 | ROG Falchion Ace 75 HE(32 → 49gf のうち軽い個体) |
| 16〜25gf | 4 | ZENAIM KEYBOARD 2(32 → 50g)/Wooting 80HE 純正(40 → 60gf) |
| 26gf以上 | 0 | CORSAIR K70 の銀軸(30cN → 100cN。3倍以上に増える) |
無重力感を生んでいるのは、たぶんここです。
軽く入っても奥でぐっと重くなると、指は「押している」と感じる。ずっと同じ重さなら「落ちている」に近くなる。その差だと思っています。
なお、磁気式(ホール効果)のスイッチは、押し始めだけ公表して底打ちを書いていないものがほとんどでした。公式に両方の数字がない場合は、触った感触からの暫定点にしています。
3. 滑らかさ・引っかかりのなさ(10点)
- 10点:無重力ボールのようにスッと落ちる
- 8点:ほぼ滑らか
- 5点:少しバネ感や擦れを感じる
- 2点:粘り、段差、ゴム感がある
- 0点:明確にニューン、ムニュッ
数字にしにくいので、実際に触った感触を優先します。
4. ダンパー・ゴム感のなさ(5点)
- 5点:ダンパーなし。終点が硬い
- 3点:筐体側に吸音材はあるが、キー内部は硬い
- 1点:少し柔らかい
- 0点:ムニュッと潰れる

B. 湖池屋スコーン感:30点
無重力に落ちても、着地が「ポフッ」では湖池屋になりません。
1. 底打ちの明確さ(12点)
- 12点:カツン、パチン、スコンと明確
- 9点:コツンと締まる
- 6点:コトッと丸い
- 3点:柔らかい
- 0点:ムニュッ、ボヨン
2. 筐体の剛性・着地の逃げにくさ(8点)
- 8点:硬いプレート。固定が強く、たわみが少ない
- 6点:適度に硬い
- 3点:柔らかいガスケット
- 0点:着地で大きく沈む
最近のキーボードは、静かで上品な音にするために内部へ吸音材を何層も入れているものが増えました。良い工夫だと思いますが、私の好みからするとそこで着地が丸くなります。完全に好みの問題です。
3. 音の歯切れ(5点)
- 5点:短く乾いた「カツ」「パチ」
- 3点:低めの「コト」
- 1点:残響、空洞音、ボワン
- 0点:静音化されすぎて曖昧
4. 戻りの速さ(5点)
- 5点:すぐ指を押し戻し、続けてスコンと打てる
- 3点:普通
- 1点:戻りが鈍い
- 0点:粘る
ここは注意が必要でした。押し返しが強すぎると疲れるので、「戻りは速いが、指に抵抗を与えすぎない」が満点です。速ければいいわけではない。

C. 疲れにくさ:15点
1. 長時間打ったときの疲労(10点)
30分以上打ってから採点します。
- 10点:ほぼ疲れない
- 8点:少し疲れる
- 5点:明確にバネを感じる
- 2点:指や前腕が疲れる
- 0点:継続使用がつらい
今使っている CORSAIR K70 RGB TKL は、ここが5点になりました。押し始めは30cNと軽いのに、底では100cN。3倍以上に重くなるので、押し切る動作が一日分積み重なるのだと思います。
逆に10点に近そうなのは Logicool G515 RAPID TKL です。35gで、しかもストロークが2.5mmしかない。押し込む距離そのものが短いので、疲れる余地が少ない。
2. ストローク(5点)
| 総ストローク | 点数 | 実際の機種でいうと |
|---|---|---|
| 3.3mm以下 | 5 | ZENAIM KEYBOARD 2 1.9mm/Logicool G515 RAPID 2.5mm/SteelSeries Apex 9 3.2mm/Gateron Jade Attraction 3.2mm |
| 3.4〜3.5mm | 4 | CORSAIR K70 の銀軸 3.4mm/ROG Falchion Ace 75 HE 3.5mm |
| 3.6〜3.8mm | 2 | 該当なし |
| 3.9mm以上 | 1 | Wooting 80HE 4mm/Pulsar PCMK 2 HE 4.1mm/MelGeek CYBER01 純正 4.1mm |
ただし、短すぎてペチペチするものはスコーン感のほうで下がります。短ければ短いほど良いわけでもありません。

D. 実用性:10点
- 日本語配列で、テンキーレスか75〜80%サイズ:4点
- F列と独立した矢印キーがある:2点
- 高さが適切で、パームレストとの相性がいい:2点
- スイッチ交換、修理、ソフトの安定性:2点
打鍵感がどれだけ良くても、毎日の仕事で使えなければ意味がありません。ここは冷静に見ます。

点数の読み方
| 総合点 | 判定 | 実際に何が入ったか |
|---|---|---|
| 90〜100 | 湖池屋スコーン極・無重力仕様 | 該当なし |
| 80〜89 | 本命。長期使用候補 | MelGeek CYBER01 + Jade Attraction 87/SteelSeries Apex 9 TKL 78 |
| 70〜79 | かなり良いが、どこかに弱点 | Logicool G515 RAPID 77/Razer Huntsman V3 Pro 73/CORSAIR K70 銀軸 73/Pulsar PCMK 2 HE 72/ZENAIM KEYBOARD 2 71 |
| 60〜69 | 面白いが買い替えるほどではない | ASUS ROG Falchion Ace 75 HE 67 |
| 59以下 | 今回の好みから外れる | Wooting 80HE 純正 56 |
そして、いちばん重要なことを書きます。
総合点だけを見ないでください。
必ずこの二つを並べます。
- 無重力:○点/45点
- スコーン:○点/30点
読み方はこうです。
- 無重力42・スコーン18 → 軽いが底が丸い
- 無重力25・スコーン29 → カツンは最高だが重い
- 無重力38・スコーン26 → 理想に近い
総合点だけ見ていると、この三つが全部「80点くらい」になります。それでは自分が何を求めているのかが、また見えなくなる。
紙の見本帳でも同じです。「良い紙」で選ぶ人はいません。嵩が欲しいのか、白さが欲しいのか、それを分けるから注文できる。

使ってみて分かったこと
この表をつくってから、店頭での時間が変わりました。
以前は10台叩いて、なんとなく良かった2台を覚えて帰る、という感じでした。今は叩きながら頭の中で「押し始めは軽い、奥で重くなる、着地は丸い」と分解しています。すると、その場で点数が出る。
そして、「軽いが着地が丸い」タイプが圧倒的に多いことも分かりました。今は静かで上品な打鍵感が人気なので、当然といえば当然です。
私の好みは、いまの流れとは逆を向いている。それが分かっただけでも、つくった甲斐がありました。

配点は書き換えて使ってください
この表は私の指のためのものです。配点は人によって変わります。
静かさを重視する人なら、音の項目はマイナス点になるかもしれません。長いストロークが好きな人なら、Cのところが逆になります。
なので、項目はそのままで、点数の重みだけ入れ替えてください。それだけでその人の表になります。
次回は、この表で実際の候補を採点します。カタログの数字を一台ずつ公式ページで確認していったら、自分が二週間信じていた前提が、根っこからひっくり返りました。
この記事で参照した資料
表の「実際の機種でいうと」に入れた数値は、2026年8月4日時点でメーカーの公式仕様ページを確認したものです。
- CHERRY MX2A SPEED SILVER(チェリー MX スピード シルバー)公式:初期荷重30cN/作動力45cN/終端荷重100cN/総ストローク3.4mm cherry.de
- Gateron Magnetic Jade Attraction(ゲートロン)公式:初期30±3gf/底打ち30±3gf(同一と明記)/総ストローク3.2±0.2mm gateron.com
- ロジクール G515 RAPID TKL 公式:35±7g/総ストローク2.5mm press.logicool.co.jp
- SteelSeries Apex 9(スティールシリーズ)公式:作動力35g steelseries.com
- ZENAIM KEYBOARD 2 TKL(ゼナイム)公式:初期32g±10/終端50g±10/総ストローク1.9±0.15mm zenaim.com
- Wooting Lekker Switch L60 V2(ウーティング)公式:40〜60gf/総ストローク4mm wooting.io
- ASUS ROG Falchion Ace 75 HE(エイスース)公式:HFX V2 初期32gf/総荷重49gf/総ストローク3.5mm rog.asus.com
- Pulsar PCMK 2 HE TKL(パルサー)公式:初期30±7gf/総ストローク4.1±0.2mm jp.pulsar.gg
スコーン打鍵感計画
- #1 湖池屋スコーンみたいなキーボードが欲しい
- #2 湖池屋スコーン評価表を全部公開する(この記事)
- #3 候補を採点したら、犯人は思っていたところにいなかった
- #4 13,500円の買い物を、600円で確かめることにした
- 番外 コピペをすると、貼り付けが三回になった
この回だけ読んでも使えるようにしてあります。話の流れを知りたければ #1 からどうぞ。

